お侍様 小劇場 extra

    “寒くても元気!” 〜寵猫抄より
 


大晦日の穏やかな数日を大きく裏切って、
正月三が日はどこもかしこも厳寒にさらされた列島で。
今年は通年どおり、
勘兵衛の知己である
小早川頼母さんが営む 風情ある温泉宿にて
年越しをした島田さんチのご一家も、
お宿の周辺がやや深い雪に埋もれてしまったお正月だったのを、
無邪気にも雪遊びをして過ごされたとか。

 「これ、いい加減にせぬと風邪を引くぞ。」

せっかくの枯れ山水風な景色となった、
宿の庭や何やを蹴散らかしては ぶち壊しだろからと。
ライトダウンのコートを着付け、
わざわざ外延まで出ての
勝手知ったるご近所の空き地まで伸してゆき。
七郎次が
小さめのバケツくらいの“かまくら”を作ってみたり、
仔猫さんたちも、

 「にゃうみいvv」
 「みゃう・まうvv」

踏むごとに小さな足がギシギシと雪に埋まるのを面白がって
時折跳びはねたりしながら雪野原の端から端までを駆け回り。
かわいらしい雪のお家におっかなびっくりもぐり込んでは、
尻尾だけ出たままになったり、
そそと中まで入ってからお顔を出したりし。
あまりの愛らしさに悶絶しつつも、即席カメラマンとなった七郎次の、
格好の被写体となって見せ。
それを、寒いのはやや苦手な御主が、
こちらもしっかりと防寒装備を着込んだ身となって
苦笑交じりに眺めてござったそうで。

 「勘兵衛様こそ、付き合ってくださらずとも。」

風邪を拾いでもしたらどうしますかと、逆に気遣われていては世話はない。
勿論、本気で宿へ戻れとまで言っているのではなさそうで、
一瞬眉をわざとらしくひそめたものの、
そのままあっけらかんと微笑う七郎次のお顔には
二人で居てこその楽しさにご満悦だというのが、
見ている壮年殿本人さえ照れが嵩じて恥ずかしくなりそうなほど
はっきりくっきり現れており。

 「…大体、
  チビたちは裸足で冷たくないのかの?」

 「そこはそれvv」

促成のかまくらの仕上げ、
手のひらで表面を均すためにしゃがみ込んでいた七郎次がふふーと微笑い。
そんな二人の間近まで“何だ何だ”と撥ねるような駆け方でやって来ていた久蔵を
それは手慣れた様子で捕まえる。
普段のいでたちであるフリース風の上下に
おっ母様特製の手編みのポンチョをまとった坊やだったの、
脇を両側から掴みあげる格好でひょいと抱き上げたれば。
小さなあんよと両手とに、
合皮製なのだろうがちゃんとした作り、
おもちゃのボクサーグローブみたいな“靴”を履いており。

 「ビスクドールの着せ替えと一緒に売ってたんですよvv」

 「手にもか?」

こうして彼ら二人が見つめる分には
エアリーな金髪もふわふかな、
あどけない小さな子供である久蔵なので、
手にもというのはちょっと違和感のある見栄えだが、
本来の姿は猫なので、前脚だけケアなしというワケにもいかぬ。
既に慣れたからなのか、
ご本人も窮屈だとか不具合があるという素振りではなくて。

 「みゃ♪」

手に嵌めたほうの底同士を
ポンポンとお茶目にも打ち合わせて見せてくれたほど。
しかも、

 「みゃんvv」

 「クロちゃんのは色違いなんですよ?」

やはりぴょこぴょんと
雪ででこぼこしたところを器用に避けつつ駆け寄って来た、
そちらはつややかな黒毛の仔猫。
片手でひょいと膝の上へと抱え上げ、
その愛らしい四肢を長い指の間へ搦め捕るよな抱え方をして、
ほらほらどうですと自慢げに示すところが、
ある意味 無邪気なもの。
久蔵が焦げ茶でクロのは赤と、
色こそ違うが、形は同じで、
一見編み上げ靴風になっており、

 「脱げぬものなのだな。」

 「そうなんですよ。」

さほどぎゅうぎゅうと締めつけて履かせてもないんですのにねと、
再び雪の上へと降ろされたチビさん二人、
普段と変わりなく軽快な駆けっこをご披露してくれるの、
まろやかに和んだ眼差しで見やる、金髪の美丈夫秘書殿で。
端正に整ったその横顔のなめらかな稜線に見ほれつつ、

 “こうまで子煩悩だとは思わなんだが。”

同性の自分との間には、
当然とは言え 子を成すことは叶わぬこと
こっそり寂しく思っていた彼なのかも知れず。
だとすれば、この不思議な和子らとの遭遇は
七郎次には どれほどの僥倖と受け止められているものか。

 《 そうと前向きに思えるなんて、
   主にもいい影響が出たなと思いますよ。》

 “……っ。”

胸のうちを勝手に読むでないわと。
黒猫さんから不意を衝かれた御主殿が、
顎のお髭をしごきつつ、
しょっぱそうなお顔になったのは
内緒のおまけ。
それにしたところで
すぐにもくすぐったそうな
苦笑が滲んでしまい、

 「なぁう。」

椿の生け垣にじゃれていたものが、
二人のそばまで さくざくと雪を蹴立て
駆け戻って来た小さなメインクーンさん、

 「???」

不意に頬笑んだ壮年様へ、
なんだ どしたと
一丁前に小首を傾げた 雪の里。




   〜Fine〜  15.01.09.



  *北の地ではうんざりするよな積雪の冬なんですよね。
   それを思えば、
   降っても雨どまりという暖かさ、
   恵まれてると思うべきなんでしょうが…。
   風邪を拾ったほどの寒さではあったんだもんなぁと、
   今年の始まりの意地悪さ加減へ、
   ついつい愚痴の1つも言いたくなるおばさんでございます。

めーるふぉーむvv ご感想はこちらへvv

メルフォへのレスもこちらにvv


戻る